ポーランド政治・社会情勢(5月24日〜30日)
1.―1ローマ教皇ベネディクト16世のポーランド巡礼
5月25日から28日にかけて、昨年4月に選出されたベネディクト16世がポーランドを訪問した。教皇巡礼の主目的は、ポーランド人である前教皇ヨハネ・パウロ2世が、ポーランドを欧州における強固なカトリックの牙城とした業績を継承することにあった。欧州では信仰離れ、カトリック離れが進んでいる中で、ポーランドは「伝統的キリスト信仰の平衡力(counterweight)と見なされている」(IHT紙)。
約30万人が参加したワルシャワ中心部でのミサ、約100万人が集まったクラクフでのミサで、教皇は世俗主義(secularism)は悪であり、「伝統的信仰の財産を継承せよ」と訴え、参加者の支持を得た。ポーランドの信仰者の気持ちに訴えるため、前教皇の事跡を顕彰し、その故地を訪問し、随所でポーランド語を使用(他の部分は大部分イタリア語)し、期待に応えた。
1.―2ベネディクト16世、アウシュヴィッツを訪問
ドイツ人である現教皇のアウシュヴィッツ訪問は、世界各国の関心を集めた。2時間の訪問で、ベネディクト16世は「神よ、何故貴方は沈黙されていたのか」「如何にしてここで行われたことに寛大でいられたのか」等、専ら最高聖職者としての立場で対応した。現教皇は、前教皇が大戦中の個人的な経験にも言及し、時に個人としての強い意志を表明したのと異なり、自分自身の意志を明言することは少ないが、アウシュヴィッツでもその傾向は変わらなかった。海外ではドイツ人たる教皇がアウシュヴィッツに於いて何らかの「謝罪」を行うことを期待する向きもあったが、そうした発言は無かった。
1.−3ベネディクト16世、ポーランドの社会問題についても発言
教皇は、直接的表現は避けながらも、ポーランドの教会や政治、社会問題にも言及した。
5月25日のワルシャワ大聖堂での聖職者とのミサでは、「信者は聖職者に経済、建設、政治の専門家を期待しているのではない。(聖職者は)偽善とエゴから離別し、質素を心がけねばならない」と述べた。この内「建設」は、グレンプ首座大司教が推進するワルシャワ・ヴィラヌフの「神性祭壇」建築等に対する批判ともとれ、「政治」はラジオ・マリヤ及びその支持グループの露骨な与党支持を指していると受けとめられた。更に、教皇は、社会主義時代の旧公安協力歴の審査で、最近数名の有力神父が嫌疑濃厚となっていることを背景に、「過去の過ちを否定しない誠実さを持ち、同時に明確な証拠無き追求を行うべきではない」と肯否定どちらの立場も明確にせず、この問題の解決を「ポーランド人に残した」(NEWSWEEK誌)。また、「教会は信仰者が失業の故にポーランドを去るのに心を痛めている。」とし、対策を呼びかけた。
2.病院スト続く
各地で緊急医療や児童診療を除く病院の部分ストが続いており、5月30日の時点で全国で94の総合病院がストに入っている。
5月30日、内務行政省は、ストの続くウッジ内務行政省病院に対し、ストは違法として参加の医師等80名の解雇命令を出した。病院長はこれを拒否し、ストは継続、更にウッジ警察官労組もスト参加意志の支援を打ち出し、全国医師労組(OZZL)は、内務行政省の措置は不必要に事態を刺激した、と批判した。
ポーランドでは旧体制時に、警察官、公安など内務省系の職員優遇策の一環で内務省病院が整備され、一般診療に公開された現在も、各県の内務行政省病院は設備が充実しているところが多い。
3.ギエルティフ、就学年齢引き下げの与党方針を否定
5月29日、ギエルティフ国民教育相(初等・中等教育担当)は、与党「法と正義」の公約で、マルチンキェヴィチ首相自ら優先策とした就学年齢の1歳引下げ=6歳児1年生、5歳児に準備学年(いわゆるゼロ年生)とする案を事実上否定した。与党では、「連立各党に協議せず、大臣の一方的発表は遺憾」との声が出ている。
ポーランドでは、幼稚園通園率が約35%とEU平均の約75%に比べて極端に低く、学業成績への影響も心配されているため、義務教育年限の引下げによる改善が計画されていた。しかしギエルティフ大臣は「母親が自宅養育する権利も守るべき」と、自党「家族同盟」の方針を優先させた。
4.オルレン、リトアニア石油会社を買収、ロシア原油の最大のバイヤーに
5月29日、ポーランドの石油会社オルレンは、リトアニア最大の石油会社Mazeikiu Nafta Rafineryの株式53.7%を、倒産したロシア・ユーコス社の清算会社Yukos International UKから買収する契約に調印した。総額は約15億ドル。オルレンは、近くリトアニア政府が所有する株式30.7%も、約8億5,000万ドルで取得する見込み。
Mazeikiu社はバルト三国でただ一つの精油所やパイプライン網を所有し、年間1000万トンの石油を精製、販売額はリトアニアのGDPの10%に達している。ロシア政府は、脱税等で倒産したユーコス社の資産扱いについてオルレン側と争っていたが、最終的に売却に合意した。リトアニア政府も歓迎の声明を発表した。
Mazeikiu社の吸収により、オルレンは企業グループとしてはロシア原油の最大のバイヤーとなり、ロシアへの交渉力が増すものと期待される。また、Mazeikiu社は石化の港湾ターミナルを2カ所所有しており、オルレンは海上輸送路への出口を得たことになり、エネルギー調達先の多様化も期待されている。オルレンのハルーペツ社長は、Mazeikiu社の近代化に今後5年間で約10億ユーロの投資を行うと発表した。
5.イスコヴィチ=ザレスキ神父、公安協力の聖職者の名前を明かさず
5月31日、クラクフのイスコヴィチ=ザレスキ神父は記者会見で、事前に約束していた社会主義時代の公安密告者の聖職者28名の氏名公開を行わない、と述べた。同神父は、クラクフ司教座から「制裁処罰」の処分を受けたと述べた。
同神父は、1980年代に「連帯」に協力し、主要拠点の一つだったクラクフ製鉄所(ノヴァ・フタ)で活躍した。近年、クラクフの旧公安協力者関係資料を閲覧、多くの現役聖職者の名を発見したとし、その調査が一段落したため「道義上やむを得ない」として近く発表するとしていた。
教会では、昨年の元教皇側近のヘイモ神父への嫌疑に始まり、今月29日にはカトリックのオピニオン・リーダー的な、「ティゴドニク・ポフシェフヌィ」誌でも、編集協力者のマリンスキ神父が、公安の秘密情報提供者だった疑いがあるとして、編集協力委託の解約を発表し、社会に大きな反響を与えた。マリンスキ神父(83歳)は前教皇ヨハネ・パウロ2世の神学校時代からの親友として知られ、前教皇に関する著書もある。記録では、前教皇の動静などを詳細に公安に密告していた疑い。
6.ポーランドのシュードリヒ首席ラビ、教皇のアウシュヴィッツ巡礼前日に何者かに殴打される
5月27日白昼、ワルシャワ中心部の通りを歩いていたシュードリヒ・ポーランド首席ラビに、若い男が「ポーランドはポーランド人のためにある」と叫び、次いで同氏を押してアイアン・ナックルで殴り、顔にガス・スプレーを懸ける、という事件が発生した。犯人は未逮捕。
同日、マルチンキェヴィチ首相はシュードリヒ氏に電話し遺憾の意を表明。チェショウキェヴィチ首相府報道官は、ポーランドには反ユダヤ主義が生まれる余地は無いと発言した。
7.ロシア、大統領会談の「中立的場所」にベラルーシを提案
5月25日付のガゼータ・ヴイボルチャ紙は、懸案となっているポーランドとの首脳会談の場所に関し、ロシア側が5月始めに突然「ルカシェンコ大統領の斡旋による、ベラルーシでの実施」を提案したと報道した。大統領府ではコメントを拒否している。
両国では、昨年末のプーチン大統領の好意的発言、2月のヤストルジェムスキー・ロシア大統領補佐官のポーランド訪問などで「雪解け」ムードが伝えられ、首脳会談を「中立的な場所」で開催するとの合意が出来た。場所は、両首脳がグダィンスクと、カリーニングラードを前後して相互訪問するか、グダィンスク湾での船上会談で調整していたとされる。現在のポーランドとルカシェンコ・ベラルーシ大統領の関係からすれば、今回のロシア側の提案は、「事実上の拒否回答」(大統領府筋)であり、「少なくとも年内は首脳会談は無し」(外務省筋)と理解されている(GW紙)。
ロシア側の冷たい反応には、シコルスキ国防相が、北欧ガス・パイプラインの露独合意を、「モロトフ・リッベントロップを想起させるポーランド頭越しの外交」という発言も一因と噂されている。