ポーランド政治・社会情勢(5月10日〜16日)
1.下院、中央汚職対策庁(CBA)設置法を採択
5月12日、下院は与党、第一野党の市民プラットフォーム等の賛成による圧倒多数で、中央汚職対策庁(CBA)設置法を採択し、発足が確実となった。CBA設立は与党「法と正義」が最も熱心に進めてきたもので、政財癒着と利権構造の解明を中心に捜査を行い、通常警察より広範で強力な捜査権限を持っている。CBA長官に予定されているカミンスキ下院議員(法と正義)は、予定人員は約500名、年間予算7,000万PLNの見込みと述べた。
2.ポーランド、ウクライナ両大統領、ウクライナ人虐殺の地で和解宣言
5月13日、南東部ポドカルパチア県のパヴウォコマ(Pawlokoma)で、カチンスキ・ポーランド大統領、ユーシチェンコ・ウクライナ大統領が出席し、両民族和解の式典が行われた。
ウクライナ国境に近いこの辺りでは、第二次大戦中から戦後にかけて、ウクライナ蜂起軍(UPA)やポーランド民兵、ポーランド軍などによる相互の襲撃が相次ぎ、住民虐殺事件が多発した。パヴウォコマでは、1945年3月、ポーランド住民がウクライナ系の住民を襲撃し、約300名の犠牲者が出る事件が起きた。
式典には各国から犠牲者の縁者が集まり、ミハリク・プシェムイシル大司教とウクライナ正教会の代表が、1968年のポーランド・ドイツ両司教団の書簡交換にならって、「許し、許しを乞う」というメッセージを交換した。
3.サッカー「フリガーン」、ワルシャワ旧市街で暴動
5月13日、ワルシャワで、ポーランド・サッカーリーグの「ヴィスワ・クラクフ」と「レギア・ワルシャワ」のリーグ優勝決定戦が行われ、クラクフが2−1で勝ったが勝ち点数で及ばず、ワルシャワが優勝した。試合後、ワルシャワのファンが「優勝祝い」のため旧市街方面に乱入、14日午前二時頃から朝まで、警察の対応も困難となり、王宮前広場が暴動状態となった。機材損壊などが相次ぎ、逮捕231名、警官負傷54名といずれも史上最大を数え、後日起訴された者は120名に上った。ワルシャワ市当局は、14日に予定されていたアグリコラでの「レギア」優勝祝賀行事を中止した。
ジョブロ法相は、「温情は一切与えない」とし、ドルン内務行政相はサッカー「フリガーン」の取締強化の法案を作成する」と述べた。
4.下院、銀行民営化・中銀活動調査特委発足
5月12日、下院は、改革後の国営銀行の民営化と、ポーランド国立銀行(NBP)などの銀行監督機関の活動を調査する特別委員会を発足させた。正式名称は、「1989年6月4日から2006年3月19日までの、銀行部門の資本、所有権民営化及び銀行活動監督諸機関の問題点審査のための特別委員会」。改革後はポーランド銀行のほとんどが外資の傘下に入り、また銀行手数料が割高に維持されている点や、銀行民営化に際して政官関係者に利権があったなどと、連立与党等の批判を基に設置されたもの。
ただし、憲法上、特別委の調査対象は具体的で特定の事項に限定される規定があることから、こうした広範な調査委の設置は違憲の可能性があり、野党の市民プラットフォームは本法案を憲法法廷に送付した。経済界からは銀行業務への過度の介入を警戒する声も出ている。
5.マルチンキェヴィチ首相、改めて北欧ガスパイプライン建設に反対の立場を表明
5月11日、マルチンキェヴィチ首相は訪問中のベルリンでメルケル独首相と会談し、独露間の直通海底「北欧ガス・パイプライン」建設計画に関し、ポーランドの同意無く独露で合意されたものであり、環境面でも問題があるとして改めて反対の立場を表明した。
この数日前には、「ポーランド政府は北欧ガス・パイプラインに出資・参加する方針」との記事が掲載された。この提案は首相府のシュネプフ外交担当次官が、首相の許可を得ないまま記者に述べたものとされ、同次官は大統領府から強い批判を受けて辞任した。
6.問題続く医療行政
(1)5月10日、国会前など、ワルシャワ中心部で約8000名の医師、看護婦が賃上げ要求のデモ行進を行った。政府は2007年から30%の賃上げを予定しているが、医師側は即時賃上げを要求し、国会で短期間の内に医療財政の抜本的対策の検討が開始されない場合は、6月にゼネストに入るとしている。
(2)5月12日、辞任を表明していたレリガ保健相は、カチンスキ大統領の仲介で撤回、残留を決めた。同保健相は、ピェハ次官(与党「法と正義」下院議員)の解任と、与党の病院の再国公営化方針の撤回を求めていた。ピェハ次官が同保健相との協力を約束し、与党が事実上再国公営化を断念したため残留の方針となった。
(3)レリガ保健相、医療関係の収入増額草案を提示
5月15日、レリガ保健相は、各地で続く医師、看護婦などの賃上げスト、抗議行動を受けて記者会見を行い、2009年には医療関係の支出をGDP比で現行の3.9%から5%、総額540億PLN(40%増)を目指すとした。国の補助金の増額と、国民にも負担を求め、2007年には健康保険費を収入の9%に増額する措置(決定済み)に加え、「介護保険」(収入×1.2%で、ただし所得税額から控除)構想にも触れたが、財務省とは全く未調整。議会では患者負担の増額として、専門医診断に毎回5PLN、入院では当初1週間は一日10plnの負担を求める案も検討されていると紹介した。
7.B.ヴィルドシュタイン、TVP総裁に就任
5月10日、国営ポーランドTV監査理事会は、満場一致でジャーナリストのB.ヴィルドシュタインをポーランドTV(TVP)の総裁に任命した。副総裁には「法と正義」出身者が2名、「自衛」、家族同盟から各1名が就任した。
ヴィルドシュタイン氏は1970年代の学生時代から反体制活動に参加し、80年代の「連帯」活動期にもジャーナリズムで活躍、改革後はジェチポスポリタ紙論説委員などを歴任した。学生時代には、同じ反体制グループの親友だったパィアスを公安の襲撃で失い、その20年後に、当時の仲間のマレシュカ(現ガゼータ・ヴイボルチャ紙記者)が当局のスパイだった事実を暴いた。2005年には旧公安協力者、被害者リストをインターネット上で実質公開し、大きな議論となりジェチポスポリタ紙を去るなど、社会主義体制に厳しい姿勢で知られる。
TVPは、政権交替の度に総裁以下幹部が入れ替わり、報道の中立性や情実人事などがこれまで問題とされてきた。