ポーランド政治・社会情勢(3月30日〜4月6日)

 

1.「ラジオ・マリヤ」局関係

(1)4月2日、報道倫理評議会は、ラジオ・マリヤ(RM)局解説者のS.ミハウキェヴィチ氏による、「米国ユダヤ人社会は、ポーランド政府の国際的イメージを悪化させると脅迫し、6000万ドルを要求している」「ホロコースト産業、株式会社『ホロコースト』が存在し、RMを攻撃している」などの度重なる反ユダヤ主義的発言で、国家ラジオ・テレビ委員会に通告した。

(2)4月3日、国家ラジオ・テレビ委員会は、憲法法廷判決によりクルク前委員長が解任され、議長不在のためラジオ・マリヤ関係の審査が出来ないと発表した。各紙は、「資料提供要求など事実関係の審査は可能なはず」として、与党支配下にあるラ・テ委のRM寄りを批判した。

(3)同4日、「ワルシャワ・ユダヤ人ゲットー蜂起」生存者の一人である元下院議員のM.エーデルマン氏は、RM局は「一部出演者はヒトラーと同様の他民族排外、反ユダヤ主義を広めている」として、マルチンキェヴィチ首相、ユーレク下院議長に対し、首相ら自身と閣僚らのRM番組への出演を止め、RM局の閉鎖を含めた措置を期待するという公開書簡を送付した。首相府報道官は、本件はラ・テ委員会の仕事と声明を発表した。

(4)同6日、コヴァルチク教皇特使(大使)は、ヴァチカン国務聖庁の、ポーランド司教団と、RM局の設立母体であるレデンプトール修道会トルン支部に対する書簡を発表した。同書簡で、国務聖庁は「RM局は過度に政治に関与し、政教分離原則から逸脱している」とし、「重大な懸念を持たざるを得ない」と強く批判、5月の教皇訪問を前に、問題の解決を求めた形になった。教皇ベネディクト16世自身、2月には、教皇は「ポーランドのカトリック報道組織は政治的中立維持の必要がある」と発言している。RM局関連の一連の動きと与党との緊密な関係は、ポーランドの対外的なマイナスイメージをもたらしている、と各紙は論評している。

 

2.下院、解散動議を否決。連立内閣か、現状維持か。

 4月6日、下院は、事前の予測通り与党の解散決議案を否決した。解散に必要な307票に約100票差だった。与党「法と正義」は野党第一党の「市民プラットフォーム」に「48時間の連立同意の猶予を与える」としたが、実現の可能性は少ない。その後政党「自衛」や家族同盟(LPR)、農民党等との連立交渉が見込まれるが、成り行きは見通し困難な状況。

 

3.前教皇死去1周年各地記念ミサ、コンサート等開催。

 4月2日、前教皇ヨハネ・パウロ二世の一周忌では、ヴァチカンの聖ピエトロ広場には約10万人が参集した。ポーランドからも多数が教皇墓参に巡礼したが、昨年の死去時よりも減少し、ドイツ、フランスなど他の国からの巡礼者が増加した。

 一方、国内各地では記念ミサやコンサート等が開催され、多数が参加した。

 

4.ヤルゼルスキ元大統領、戒厳令布告の責任などで刑事訴追。

 3月31日、社会主義時代の非合法政治犯罪などを調査・訴追する国民記録機関(IPN)は、ヤルゼルスキ元大統領(1981年戒厳令時の首相、救国軍事評議会議長)を、「集団武力犯罪行為を指揮し、非合法の戒厳令を布告したことは、共産体制の殺害行為に該当する」として刑事訴追した。IPNは訴追理由を、戒厳令布告の権限は当時でも国会(Sejm)の専権で、国家評議会の代理行為は認められず憲法違反、などと説明している。有罪となれば最高禁固11年で、シヴィツキ国防相らの当時の側近も併せて訴追された。

 法律専門家は、法手続的に非常に複雑な裁判になる、と予想しており、Z.ブヤク、W.フラシニュク等、当時反体制派として活躍した人物からも、「判断は歴史に任せるべき。法的責任追及は必要ないと考える」といった発言が目立った。

 

5.ギロフスカ蔵相、2007年度からの税制改革案を発表

 3月31日、ズィタ=ギロフスカ蔵相は、2007年度からの税制改革案を発表した。全体として大きな変化は少なく、雇用経費削減、雇用拡大効果には疑問の声が多い。このタイミングでの発表は、来る政党「自衛」との連立に備え、あらかじめ政府方針を対外発表する狙いがあるとも言われている。主な点は次の通り。

(1)社会保険料(ZUS経費)では、従業員負担分は純減、雇用者負担分は現状維持。

 (a)年金掛金が給与総額(グロス)×9%に引下げ。(現行13%)。

  この内、雇用者負担4.5%、本人負担4.5%。

 (b)健康保険掛金を給与総額(グロス)×0.65%〜1.8%の範囲で削減。

  負担は、現在の本人負担100%を、雇用者100%負担に変更。

(2)個人所得税(PIT)

 非課税枠、控除枠引上げは法律制定を条件に、今2006年度の導入を目指す。現行3段階の税率(19%、30%、40%)は当面維持し、2段階(18%、32%)への移行は2009年の導入を目指す。

(a)必要経費枠は、現行(月間)1,227PLN→1,283PLNに(56PLN引上げ)

(b)非課税所得枠は、現行(月間)2,790PLN→2,969PLN(179PLN引上げ)

(c)税率毎の課税所得上限額を15.5%引上げ:

 税率19%―現行(年間)37,024PLN→42,764PLN

 税率30%―現行(年間)74,048PLN→85,528PLN

(3)少子化対策優遇策

 来2007年度に導入を予定

 第3子以降、一子あたり572.47(月間)の非課税枠を設定、など。

(4)個別契約ベースの就労の所得、委託業務収入等に対する必要経費枠の削減

  一部アーティスト等の必要経費特権制度(所得の50%)を廃止し、非課税必要経費枠は一律1,302PLN(月間)に設定する。

 

6.大統領府長官の失態

(1)3月28日、ウルバィンスキ大統領府長官は、「一人の枢機卿が政治を決定すべきではない」などとして、暗にジヴィシ枢機卿・クラクフ大司教を批判した。同枢機卿が、教皇訪問との関係から与党の5月解散・総選挙提案に難色を批判したのが原因。同長官は一応謝罪したが、更に正当化ともとれる発言をしたため、カトリック系紙は大統領自身の謝罪を要求した。一部の新聞は「ウルバィンスキは教会内のラジオ・マリヤ派だけを怖れ、司教団幹部を軽視している。本音がつい出ただけ」とコメントした。

(2)3月29日、同長官は、カチンスキ大統領が「ヤルゼルスキ元大統領とは気付かないまま」同元大統領にシベリア流刑者勲章を授与したことに関し、「大統領は対象者がヤルゼルスキ将軍と気付かずに決定に署名した。叙勲は大統領の意志ではない。今回の件は、前大統領時代からの職員が政治的意図でやったものだ」などと発言し、大統領府内の混乱を自ら曝した形になった。ヤルゼルスキ元大統領は勲章を返上した。

 これらの件は、単なるミスではなく、与党・大統領と司教団との不協和音や、大統領府の機能不全が元にあり、元々良好とは言えない大統領府のイメージダウンをもたらした。一時は「ウルバィンスキ、解任か」の報道もあった。同長官には、ワルシャワ副市長時代の鉄道車両入札に関する疑惑も出ている。