ポーランド政治・社会情勢(2月1日〜7日)

 

1.与党+2野党で「安定協約」成立。国会解散回避へ。

 2月2日、与党「法と正義」のカチンスキ党首と、野党第三党「自衛」のレッペル党首、同第四党「家族同盟」のギエルティフ党首は、マルチンキェヴィチ現内閣を支持し、閣外連立を形成する「安定協約」に署名した。これにより、政府は当面国会での多数を確保し、議会解散の回避がほぼ確実になった。

 「安定協約」の有効期限は一年とされ、その間三党は閣僚、下院議長などの不信任案を提出せず、別表に記載された約160の法案への賛成が義務となる。三党で未合意の法案への反対も義務付けられ、他の野党の立法活動を封じるものとなった。各紙は、「与党は市民プラットフォーム(PO)との連立に失敗し、解散を絶対に避けたい二野党を抱き込んだ」と論評し、諸外国ではポピュリスト(「自衛」)と極右(家族同盟)との連立で、ポーランド与党の保守・右派性がより強まった、というコメントが多かった。

 なお、「安定協約」の署名取材が、「ラジオ・マリヤ」主宰者のリズィク神父の要請により、仮署名では同社系のメディアだけに取材させ、他のマスコミは排除したため、各社は抗議しその後の記者会見をボイコットした。

 

2.「安定協約」の法律案

 2月2日に署名された「安定協約」には、160を超える「賛成義務法案」(現行法の改正案を含む)のリストが付いており、「ポーランド国家の根本的改造」、「第4共和国建設」を目指す政府・与党の方向性が明らかになっている。ただし、リスト中の法案には法律の名前だけか、数行の説明しかついていないものも多く、それらの法案の具体的な中身は不明になっている。

 主な分野は次の通り。

○汚職対策・情報機関改革:「中央汚職対策庁」(CBA)設置法、下院の常設捜査特別委「法と公正」設置法、軍情報部(WSI)改革関連法、対社会主義期公安協力の前歴審査対象の拡大

○治安対策・司法機構の強化:軽暴力犯罪等に関する終日簡裁(「24時間裁判所」)設置法、警察・国境警備隊改革、弁護士の裁判妨害等に関する罰則強化。

○社会福祉:年金法改正(実質増額)、国家養育基金復活、育児休暇の延長

○公共財政関連9法案:VAT、法人・個人所得税、税務規則簡素化など。ただし名前が挙がっているだけで詳細は不明。

○経済13法案:国際商標登録関係法(EU指令準拠)、中銀(NBP)改革法案(公開オペ権限の剥奪等)、企業登録等の規制緩和、イノベーション関連事業の免税、銀行・証券・保険等業界を統合監督する金融監督庁(UNF)設置法案(運営費用は業界負担)。

○教育:義務教育開始学齢の1年引き下げ(満6歳から)、全5歳児の幼稚園通学義務化、「国民教育機関」設置法(詳細不明)

○農村支援関連:農業用燃料の物品税還付法案など10法案。

 この他にも、科学技術センター設置法、報道規制を強化するメディア・モニター法、労働監督署と取締機関との連携強化によるヤミ就労取締強化関連法などがある。

 各紙のコメントは、経済関係では、全般として業界・市場待望の法案が少なく、国の権限の強化と、農村支援関係が目立ち、歳出増加を招く可能性が高いとしている。また、これだけの法案を作成、実施する能力が現内閣にあるのかとの疑問の論評もある。

 

3.ポーランド人女性が合法的中絶の権利侵害で、欧州人権裁判所に政府を提訴

 2月7日、ポーランド人のA.トゥイションツ(Alicja Tysiac)氏は、現在5歳の息子を懐妊した際、眼科医から失明の危険があると診断を受け、婦人科医に中絶を申請したが拒否され、出産後、重度の視力障害となった。今は母子家庭で三人の子供を養育しているが、月収は生活保護の840plnのみ。トゥイションツ氏は、合法的な中絶(母体の生命・健康への危険の可能性)の権利を侵害されたとして、欧州人権裁判所にポーランド政府を提訴した。政府側は、同氏が書類上の手続を怠ったとしているが、弁護士のヴィルコフスカ=ランドフスカ氏は、病状にあった妊婦には然るべく医師が助言すべきだったと反論している。

 本件はインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙など外国紙の反応も大きく、ポーランドは欧州でも最も中絶に厳しい国で、昨年の統計上の中絶は200件以下、と改めて紹介した。

 

4.預言者ムハンマド(マホメット)の風刺画掲載問題。表現の自由を巡る論争に。

 2月4−5日付のジェチポスポリタ紙は、アラブ世界で抗議を引き起こしている、デンマーク「ユランス・ポステンス」紙掲載の預言者ムハンマド(マホメット)の風刺似顔絵を転載した。

 同日、マルチンキェヴィチ首相は、風刺画掲載は報道の自由の範囲を超えていると批判し、メレル外相は、イスラム社会にポーランド政府として謝罪すると述べた。同6日、ミシキェヴィチ・ポーランド・イスラム宗教連合代表は同紙に抗議し、同日、ガウデン同紙編集長は、「本件掲載で屈辱を感じた人々に謝罪する。我々の意図は急進的なイスラム一派による言論の自由への恐喝への抗議である」との声明を発表したが、ミシキェヴィチ代表は不十分だとし、「ジェチポスポリタ」1面での謝罪公告を要求した。同紙側はこれを拒否した。

 各紙誌では、「イスラム社会での反ユダヤ主義報道も問題」、「報道の自由を超える内容ではない」、「他の文化、宗教の象徴を侮辱するのは報道の自由に反対する」と言った賛否両論が展開されている。

 

5.教会内の政治的対立深まる?

 与党他三党の「安定協定」交渉には、ラジオ・マリヤに好意的なグウジ・ワルシャワ=プラガ大司教が仲介役となり、一方「法と正義」と市民プラットフォームとの交渉はゴツウォフスキ・グダィンスク大司教が仲介したことが明らかになった。この間、ラジオ・マリヤ局長のリズィク神父は、「選挙となれば『法と正義』だけを応援出来るかは不明。」「与党と市民プラットフォームの連立には絶対反対」などと発言した。ゴツウォフスキ大司教は、政府・与党政治家のラジオ・マリヤ局(トルン市所在)出演を止めるように呼びかけてもいる。司教団内部でも、ラジオ・マリヤを軸とした政治的対立関係が生まれているのを窺わせた。

 

6.ユルギエル農相、「リズィク神父」への公用車提供で首相から厳重注意

 2月7日付のFAKT紙は、記者が「ラジオ・マリヤ」主宰者のリズィク神父の秘書を語らい、ユルギエル農相に「神父の車が故障した。何とかならないか」と助力を要請、農相は直ちに公用車を差し向け、指定の場所まで送ったという「オトリ取材」のルポを掲載した。この記事により、現政権に対する「ラジオ・マリヤ」とリズィク神父の影響力が改めて示され、同日マルチンキェヴィチ首相は国民に謝罪し、公私混同として農相に厳重注意を行った。ユルギエル農相は、同7日、「公用車の私用負担部分」として18.55PLNを農業省会計に支払った。

 同日、リズィク神父は「ラジオ・マリヤ」にて、「首相が日常生活の出来事に何故謝罪するのか判らない」と暗に首相を批判した。ゴツウォフスキ・グダィンスク大司教は首相の謝罪を評価しつつも、「閣僚がこれほど頻繁に『マリヤ』に出演しないのを望む」と述べた。