ポーランド政治・社会情勢(11月23日〜30日)
1.政府、与党公約から後退相次ぐ
税制、行政改革など、政府は与党「法と正義」の選挙公約から次々に後退している。
11月24日、マルチンキェヴィチ首相は、税制改革のパッケージ案は来年3月に提示するとした。他方、ルビンスカ財務相は、法人所得税の引下げは雇用拡大に効果が薄く、新規雇用企業に対する税制優遇案(新規雇用1名につき法人所得税を1,000PLN/月、2年間免税)は、乱用が懸念される、として導入に消極的な姿勢を示した。利子・公社債取引益への課税撤廃については、預金利子課税は継続、債券取引の利益課税についてもおそらく継続すると述べた。更に、「法と正義」が18%、28%の二段階への改革・引下げを公約していた個人所得税についても、「2006年の経済成長率、歳入増が大きく影響する。検討したい。」と述べるにとどまった。
また11月21日、ポラチェク運輸・建設相は、これも「法と正義」の公約である「8年で300万個の住宅建設」に関し、「年間17万〜18万戸が妥当。」で、それも住宅ローンの政府保証等が中心で、政府による公共住宅の建設には否定的な姿勢を示した。
内務行政省では、県地方長官(wojewoda)出張所の廃止を撤回し、「警官の倍増」公約も実施が危ぶまれている。
2.ガソリン税値上げせず
11月26日、マルチンキェヴィチ首相は、燃料税引下げ措置を継続すると発表した。9月以来、ガソリンでは1リットルあたり1.56plnの税金を1.31plnとする臨時措置が採られているが、年末で期限が切れるため、継続するとしたもの。政府の試算では、この延長による歳入不足は約20億PLN。
3.荒れる学校:小学生の4分の3、中学生の半数が、「暴力の脅威を感じた」
11月28日付のジェチポスポリタ紙は、ウッジ大学心理学研究所が行った、校内暴力などに関する全国の小学校(初等学校)、中学校(ギムナジウム)の調査を紹介した。アンケートの結果では、小学生の約73%、中学生の約53%が校内での暴力の恐れを感じたことがある、と回答し、各々65%、42%が「現実に暴力を受けたか、それを見たことがある」とした。その大半が、「上級生の下級生への脅し」だった。調査責任者のG.ポライ教授は、「特に小学生の意識荒廃が進んでいる。青年層全般の攻撃的性格が強まっているのが影響している」と分析する。
ルブリン県のある中学生は、「上級生が集団で1年生の男子の頭を便器に漬け、水を流していじめた。そういうことがあるのはみんな知っているけど、仕返しが怖くて黙っているので先生も手を出せないでいる。」という事例を述べたという。
共同で調査に当たったワルシャワ心理・神経学研究所のボブロフスキ博士は、犯罪との関係も分析し、「中学生の5分の1が何らかの不法行為に関係している」とし、警察の統計でも、殺人、麻薬等犯罪の低年齢化、凶悪化と、女子中学生犯罪の増加が顕著になっている。首都警察では、「学校にカウンセラーを配置する必要がある。我々だけの努力では対応不可能になりかねない」と警告している。
4.マルチンキェヴィチ首相、炭鉱労働者年金特別法の憲法法廷提訴を取り下げ
11月29日、マルチンキェヴィチ首相は、炭鉱労働者の年金特権を固定化する改正年金法について、ベルカ前首相が行った憲法法廷への提訴を政府として取下げると発表した。同改正では、炭鉱労働者は地下労働25年で年齢に関わり無く年金受給が可能で、年金の計算も、他の勤労者の1.5倍とされた。例えば18歳から25年連続して働けば、43歳で年金生活者となり、年金額は37.5年(25年×1.5)働いたものとして計算される。
法案は当初は反対が強かったが、6月に炭鉱労組が国会前で「実力行使」を行うと急ピッチで可決、成立したもので、今後の多大な財政負担が懸念されている。本法案に反対したベルカ前首相政権は、法の下の平等に反する疑いがあるとして憲法法廷に提訴していたが、今回の取下げにより、同法の施行は確実となった。民間雇用者連合はこの決定に強く反発し、ボフニャシュ会長は「連合」による憲法法廷への提訴も検討すると述べた。
ポーランドでは、他に警官や国境警備隊員などの「制服組」も早期年金生活入りの特権があり、「ヤミ労働」の原因と指摘されている。
5.各地で「平等の行進」
11月27日、ワルシャワなど主要都市9ヶ所で、同性愛者などによる「性別、年齢、性的性向、宗教、政治的信条による差別に反対」する「平等の行進」デモが実施された。同21日にポズナニで同種のデモが市当局により禁止され、警官隊が介入したことに抗議するもの。各市役所ではほとんど許可を出し、グダィンスクなど一部を除けば平穏に終わった。サフィアン憲法法廷長官は、自治体が治安上の理由でデモを不許可とするのは違憲の可能性が極めて高い、と改めて警告した。
6.セヴェリンスキ教育・科学相、教科書価格公定制の導入を否定。
11月22日付のジェチポスポリタ紙は、セヴェリンスキ新教育・科学相の教育政策に関するインタビューを掲載した。その要点は次のとおり。
1.(与党「法と正義」公約の)教科書の公定価格制導入は、出版業界への市場介入となり好ましくない。ただし低所得家庭への補助金の支給を検討したい。 (注:ポーランドでは、小中学校の教科書も全て親が市内の書店で購入し、価格も他の本と変わらず、全部揃えると年間300〜400PLNと大きな負担になっている。)
2.数学を大学入試試験(マトゥーラ)の必須科目に復帰させたい。ただし実施は早くとも3年後。
3.EU各国等への外国留学補助制度を充実させたい。
4.今年度の大学入試制度変更による混乱で、各大学が来年の入試まで1年間随時学生募集を行うという臨時救済措置については、検討する。
この他、「マルチンキェヴィチ首相は、現行の6歳児(ゼロ学年)に加え、5歳児の幼稚園教育義務化を主張するが、現在(通園率約50%)でさえ自治体は財源捻出に苦労しているのにどう実現するのか」という記者質問に対しては、返答を避けた。