ポーランド政治・社会情勢(11月8日〜15日)

 

1.マルチンキェヴィチ内閣、「自衛」、家族同盟の支持で信任

 11月10日、下院はマルチンキェヴィチ内閣の信任投票を行い、賛成272、反対187(棄権0)で信任した。事前の予測通り、与党の「法と正義」と、政党「自衛」、「家族同盟」、農民党が賛成し、市民プラットフォームと民主左翼連合が反対した。

 ポーランドの憲法では、一度下院で承認を受けた内閣は、大統領が解任に積極的になるか、下院で野党が多数会派を形成しなければ事実上解任出来ない。12月には与党「法と正義」のカチンスキ大統領が就任するため、今回の各党の動きを見れば、当面はマルチンキェヴィチ内閣が倒れる可能性は低いこととなる。

 ただし、マルチンキェヴィチ内閣は下院460議席中155議席しか持たない「法と正義」の単独内閣であり、予算案を含む法案を議会に上呈する度に、他の政党の支持を得なければならず、今後の政局運営に不安定さを与えている。

 

2.マルチンキェヴィチ首相、所信表明演説で「国家の機能回復」を強調

 11月10日、マルチンキェヴィチ首相は下院にて内閣信任要請のため所信表明演説を行い、 新内閣の政策の中心課題として、1.司法機構を初めとする国家の機能回復、2.国の安全保障を確保する外交、安全保障政策、3.少子化対策など、安定した家庭の維持と社会保障の強化、4.雇用拡大による経済成長、5.農業の強化と農村近代化、を挙げた。イラク駐留については、米国、イラク政府等と協議の上、今後数週間で駐留部隊の規模、期限の方針を策定する、とした。

 政策は、全体的に下院の多数派工作で支持を要請した政党「自衛」、農民党、「家族同盟」に配慮した内容となっている。財政赤字の300億PLNの維持と、個人所得税を18%、32%の二段階制度とするとした以外は、具体的な数字は挙げなかった。遅れているEU補助金の導入については、調整、統合機関として「開発省」の設置を改めて強調した。また、ガソリン等へのエタノール燃料混入制度を実施する、と発表した。

 各紙では、エコノミストを中心に、「1989年以来初めて経済に優先度を置かなかった。」、「ポーランドは新EU加盟国でユーロ導入の具体的スケジュールを提示しない唯一の国になった。」、「減税、歳出増加、財政赤字の抑制、の同時実施は実現不可能。」、「炭坑夫の年金特権法を撤回しない限り4年間に毎年300億の赤字など不可能。」、「ポピュリストのお陰で内閣信任を得た。」などと辛口の論評が目立った。

 なお、マルチンキェヴィチ首相は、11月14日付のジェチポスポリタ紙のインタビューで、2006年は実質成長率5%、失業率はマイナス1ポイントの達成を目指す、と述べた。

 

3.「自衛」、「法と正義」との連立政権を希望。カチンスキは否定せず。

 11月11日、国会第三党の「自衛」レッペル党首は、マルチンキェヴィチ内閣の信任の後、「自衛」は、与党「法と正義」と閣外協力だけでなく、正式な政策協定を締結し、連立政権を作りたいとの希望を表明した。特に関心のある省庁として、農業省、労働・社会政策省、国防省(退役軍人グループは「自衛」の有力支持層)を挙げている。カチンスキ「法と正義」党首は、「レッペルが今後も「法と正義」の法案を支持すれば政界で新たな地位を獲得する」と述べ、連立の可能性を否定はしなかった。

 「自衛」は、中央省庁の他、全国数百カ所の農業構造改革・近代化庁(ARIMR)の支局長ポストや、有力国営企業の経営理事ポストに意欲を示しており、「我々は人材に不足は無い」(ウィジヴィンスキ副党首)としている。

 

4.国民健康基金、集中治療室での治療制限の方針

 11月15日、医療費の大部分を管理する国民健康基金(NFZ)は、@集中医療室(ICU)搬入後12時間以内に患者が死亡した場合、病院に医療給付金は支払わない、A手術を実施し、その後患者をICUに移送し、72時間以内にICUを出た場合は、給付金はICUではなく、手術を担当した部門に支払う、という提案を発表した。NFZは、理由として、ICUの診療費が通常より高額なため、各病院では、救急医療の段階で死亡した患者を名目上ICUに移送したことにしたり、手術後必要もないのにICUに移送して医療給付金の不正請求を行う事例が多いため、と説明している。

 医療関係者では、「12時間以内に死亡する可能性の高い患者の受診拒否につながる」と反発を強めており、NFZ側は今後も交渉を継続する方針。

 

5.ポーランド国鉄、近距離列車の30%を削減

 11月14日、ポーランド国鉄(PKP)は、赤字削減のため、来年3月からの新ダイヤでは、近距離列車の運行を30%削減すると発表した。地元自治体が赤字分の補填を行えば運行継続を考慮するとしている。

 

6.米国のミサイル防衛網で、ポーランドが国外初の基地に?

 11月10日、マルチンキェヴィチ首相は、所信表明演説の付属資料「団結の国家」を下院に提出した。その外交・防衛政策の項に、米国の世界ミサイル防衛網(BMD)(注)の欧州基地をポーランドに誘致、と記載されていたことから、国際的な注目を集めてしまい、マルチンキェヴィチ首相は、3日後には前言を翻して「本件は検討中」とした。ロットフェルド前外相は、(米国との交渉中の秘密漏洩は)「素人外交だ」と批判した。

 (注)BMD(Ballistic Missile Defense:弾道ミサイル防衛)

 1980年代のレーガン政権「戦略防衛構想(SDI)」で計画された衛星、地上、艦船基地によるミサイル迎撃システム。米国は国際テロ国家からの防衛のため、将来的に全世界にこの防衛システムを広げる計画。現在の迎撃基地は米国内の2カ所(アラスカ、カリフォルニア)だけで、ポーランドに設置されれば、米国外で初めての第3の基地となる。基地建設費は全額米側負担で、設計は米ボーイング社が担当し、年内にも同社はポーランド事務所を開設する予定とされる。

 

7.ロシア、ポーランドの農産物を全面輸入禁止

 ロシア政府は、11月10日に畜産製品、同14日に野菜、穀物、花、果物などのポーランドの農産品の輸入を全面禁止とした。食品安全に関する輸出許可証で、悪質な虚偽記載の頻発が理由としている。ポーランドでは、マスコミを中心に、大量の虚偽申請の事実は無く、中道右派政権の発足に伴うロシア側の政治的圧力だと反発している。ポーランドの対ロシア農産物輸出は、月間約3,800万ユーロで、最近増加傾向にある。

 直後にモスクワを訪問したメレル外相は、ラヴロフ・ロシア外相と会談し、虚偽申請の一定の事実は認めつつ、本件の解決を目指し、ラヴロフ外相も本件は一時的な措置だと強調した。しかし、当面、両国の食品安全担当者の協議を行い、その後両国農相が会談する、と決まっただけで、輸出再開の具体的な期日などは合意できなかった。本件は貿易関連事項のため、EU、欧州委でも対策を共同協議する見込み。

 

8.新年から通常電話の番号システムが変更

 11月15日、ポーランド電信電話(TP SA)は、7月のインフラ大臣令に基づく電話番号システムの変更(携帯電話は対象外)を、12月5日から実施する方針を示した。他の電話会社も年末までには実施する見込み。

 変更点は、現行7ケタの電話番号を、今の市外局番を含めた9ケタとし、更に最初にゼロを回す方式で、要するに電話のかけ方は全て現在の市外通話と同じになる。従って、例えばワルシャワ656−5000番は、市内からでも0−22−656−5000を回さないと通じなくなる。

 新システム導入の理由として、将来的な電話番号不足への対処と、国内ならどこに引っ越しても電話番号を維持出来る、「一生同じ番号」を可能にするメリットが挙げられている。新システムはEU全体で施行されているものではなく、フランスやポルトガルなど一部の国で導入されている。