ポーランド政治・社会情勢(5月6日〜10日)
1.モスクワの対独戦勝60周年記念式典
(1)プーチン演説に対する不満
5月9日のモスクワ式典で、プーチン大統領は、対独戦勝の仲間として、連合軍の米英仏と、独伊のレジスタンスを賞揚した。ポーランドを含めた他の国への言及はなく、スターリン圧政の犠牲等に関する発言も無かった。ポーランド国内では、「大戦であれだけ貢献したポーランドに対する屈辱だ」とする見方や、「演説自体は穏当なものだ」とする見解が出ている。
(2)大統領の式典出席についての議論
クワシニェフスキ大統領は、「(式典への)出席は必要なことだったと確信している。」と述べた。野党では、ナチス・ドイツと共にポーランドを分割侵攻したモロトフ・リッベントロップ協定、ポーランド将校のソ連当局による大量虐殺事件(カティン事件)、ポーランドが戦後体制を押しつけられたヤルタ・ポツダム協定、に対する批判を大統領が表明できなかったとして批判している。
(3)大統領の「16人狩り」(注)犠牲者を慰霊。ロシアとの和解を訴え。
5月8日、クワシニェフスキ大統領は、モスクワ・ドンスキー墓地のL.オクリツキ(元国内軍(AK)司令官)、S.ヤシュコヴィチ(ロンドン亡命政府の対本国次席特使)の墓参を行った。この席で、同大統領は、ポーランドとロシアには未清算の歴史的問題が多く、両国関係に大きな影となっている。我々は和解を希望し、相互理解の道を模索しているが、そこには歴史的真実が基礎とならねばならない、などと述べた。しかし出席していたのはポーランドの関係者だけだった。
※「16人狩り」:第二次大戦終了後、ロンドン亡命政府系の地下レジスタンス指導者16名が、ソ連軍当局の招きに応じて政治的協議のために出頭したが、そのままモスクワに拉致され、見せ物裁判の後に死刑、長期懲役刑となった事件。
(4)ヤルゼルスキ、プーチン大統領より戦時功労勲章を受章。
大統領と共に式典に参加していたヤルゼルスキ元大統領(ソ連軍兵士として大戦に従軍)は、プーチン大統領から戦時功労勲章を授与された。ポーランド国内では、「対ソ連協力の象徴的人物」の式典出席について批判が強かったが、この受賞はほとんど無視されていた。しかし、クラウス・チェコ大統領は、68年のチェコ侵攻時にポーランド国防相であった人物の受賞を傍観視は出来ない、として批判した。
2.モスキワ式典後のボリショイ劇場公演中止
5月9日のモスクワでの第二次大戦勝利記念式典後、オルシュティン、ルブリン、ワルシャワでのロシア・ボリショイ劇場の公演が、切符のキャンセル等が相次いだため中止となった。
この公演は、モスクワ式典前のポズナニ、ビドゴシチでは満員だったのが、式典当日の9日のワルシャワでは既に空席が目立っていた。同式典でのプーチン大統領の演説に対する不満の現れと見られている。これには「プーチンとプーシキンを同一視すべきではない」(ジチンスキ・ルブリン大司教)など、文化は文化として受容すべきという批判も多い。
3.民主党、発足
5月7、8日、民主党(PD)の設立大会が開催された。母体となった自由同盟(UW)は発展的解散となった。党首はフラシニュクUW党首、副党首にはハウスネル前副首相(元SLD)が選出された。
政策としては、穏健な中道政治を志向し、経済政策では単一税率(18%)の導入、新規投資に対する優遇措置の導入など、民間活力を重視、低所得者支援でも所得税減税を中心とするなど政府の介入を抑えるもので、これまでのUWの方針を受け継いでいる。最近の世論調査では、UWは議席獲得に必要な得票率5%のラインを上下している。
ベルカ首相も設立発起人として参加し、首相として自ら野党となるという矛盾を犯しているという批判に対しては、それは議員達がまさに行っていることだ、と述べ、与党でありながら政府を攻撃しているとして民主左翼連合(SLD)を暗に批判した。また、首相在任中は、党務より公務を優先させざるを得ない、とも述べた。
4.「オレクスィ控訴審」で2名の判事が辞任、判決は選挙後か
5月6日、オレクスィSLD党首の、軍情報部協力歴に関する控訴審を担当していたワルシャワ上級裁で、担当判事三名の内、二名が辞任した。これにより、早ければ五月上旬とされていた判決が大幅に延期され、秋の国会選挙以後になる可能性も強まった。SLDは選挙戦を現体制で行うこととなりそうだ。
オレクスィ党首には、70年代に軍情報部に情報を流し、報酬を得ていた疑惑がある。ポーランドでは、公職に就く際に社会主義時代の情報機関に対する協力の有無を宣誓する義務があり、同党首は協力歴は無いとしていた。しかし、昨年12月のワルシャワ管区裁の判決ではこの発言が虚偽とされ、同党首は控訴したものの下院議長を辞任した。次の控訴審判決は法的効力を持つため、再度虚偽と判断されれば、10年間の公職追放、下院議員職も剥奪され、事実上政治生命を絶たれる可能性が高い。
辞任した二名の内、チョピンスキ判事はオレクスィ党首のトムチク弁護士の法相時代の部下であり、レデル判事は一般的にこの裁判制度に批判的な見解の持ち主だとして、新聞で名指しで報道されていた。控訴審はオレクスィ党首に有利に進んでいると言われており、同党首は、今回の判事辞任はメディアによる司法への圧迫だとして強く批判した。
5.シシュコフスカ上院議員ノーベル平和賞候補に
5月9日、スイスの外務大臣カルミ=レ女史が、ポーランドのシシュコフスカ上院議員をノーベル平和賞候補に推薦したことが明らかになった。推薦の理由は、反同性愛者の風潮に対抗し、人権擁護に闘った功績を挙げている。同上院議員はワルシャワ大学教授で、ポーランドで夫婦以外のカップルに対し、民法上の婚姻と同等の権利を認める運動などを行ってきた。反カトリックではないが、政教分離を強く主張してきてもいる。選挙では民主左翼連合(SLD)から立候補したが、「現在は真の左派政党は存在していない」、として04年12月にSLDを離脱している。ポーランド人のノーベル平和賞受賞者は、1983年に受賞したワレサ元大統領がいる。
6.シロダ男女同権対策相、TV・CMを批判
5月6日、シロダ男女同権対策政府全権は、最近のTVコマーシャルを、「セミ・ヌードで現れて馬鹿な話を繰り返し、男に奉仕するブロンド女」が多く登場し、女性に関するステレオタイプを助長していると批判した。同全権は、こうしたCMは男女同権法に反する可能性がある、と具体例を挙げて指摘、女性に関する偏見を追放する機関の設置を提案し、少なくとも公共放送のTV1、TV2などからはこの種のCMを追放したいと述べた。