ポーランド政治・社会情勢(12月1日〜7日)

 

1.クワシニェフスキ大統領、個人所得税法改正案の署名「見送り」

11月30日、クワシニェフスキ大統領は、個人所得税の最高税率を現行の40%から50%に引上げる税法改正案への署名を、「他に大事な仕事がある」として見送った。最終的に署名するか否かは明らかにしていない。税制改正については最低1ヶ月間の周知期間が必要なため、事実上2005年会計年度には導入が難しくなった。同改正案に盛り込まれていたインターネット関連税と、贈与税の減税も宙に浮いたまま。財務省は、各税務署に対し、2005年版の「税務関連法規の解釈書」の市民向け配布を、予定されていた12月1日から、1月1日に延期するよう指示した。

各紙は、大統領は「具体的効果が無くムダが多い」と評判のこの法案に消極的だが、与党民主左翼連合(SLD)の提案だけに、署名拒否=拒否権の発動も躊躇したと解説している。

 

2.財務省、自動車購入時の取引税を廃止し、環境税導入を検討。中古車輸入急増に歯止めか。

8日付ガゼータ・ヴイボルチャ紙は、政府(財務省)が、自動車購入時に課されている取引税を廃止し、替わりにEU諸国で一般的な環境税導入を検討しており、近く国会に法案を提出の見込みと報道した。

ネネマン財務次官によると、課税は新車又は輸入中古車の登録時の一回だけで、排気量の1t毎に課税額を設定し、(1)新車は1plncc、(2)中古車は環境基準及び年式で差を設け、1.5〜4.0pln/ccとする提案。ただしポーランド国内では1回の課税で足り、国内での転売では課税されない。

編集部の試算では、税制改定による新車への影響は、価格3万pln程度までの車は実質400〜700pln程度の増税となり、排気量1.4〜1.6L、価格4〜5万plnクラスには現行と変化はなく、逆に排気量2.5L以上、価格10万pln以上の大型車は現行よりむしろ税金が大幅に低下する。一方、輸入中古車に対して増税となり、特に「超中古車」例えば1991年製、価格1,000plnでは現行取引税は670plnだが、環境税では4,000plnに達することになる。

法案の目的の一つは、中古車の洪水輸入と環境への悪影響に対処するもの。財務省では、本件は欧州委とも協議済みで、EUの域内輸入制限排除にも抵触しないとしている。

 

3.ポーランド、「カティンの森」事件(注)の独自捜査を開始

12月1日、国民記録機関(IPN)(下記注)は、いわゆる「カティンの森」事件に関し、ポーランドとしての独自の捜査を開始すると発表した。捜査の目的は、この事件の当時の命令者、殺害実行者、捕虜輸送担当者など約2,000名に上ると見られる容疑者を特定することにある。ただしロシア側が本件は時効としていることから、高齢ながら容疑者の生存が確認された場合も、訴追は困難と見られている。「『カティン』殺害被害者遺族会」等の遺族団体はこの決定を歓迎している。

今回の決定は、両国政府の合意で捜査に当たっていたロシアの軍事検察局が、容疑者の訴追等は行わずに9月に捜査終了を決定したことを受けたもの。

ロシア側は、1939年9月のポーランドの分割占領を密約したソ連・ドイツの「モロトフ・リッペンドロップ」条約の秘密議定書は、「ナチス・ドイツの脅威に対する防衛的観点から為された」ので、1939年9月17日のソ連赤軍の「行動」もポーランドへの侵略ではなく、ソ連はポーランドと戦争状態には無かった。従って(カティン事件で殺害された)人々は戦時捕虜ではなく、通常の殺害犯罪であり、時効が適用されるというもの。ポーランド側は、当時ソ連とポーランドは戦争状態にあり、明らかにカティン事件の犠牲者は戦時捕虜で、特定目的の集団殺害、いわゆるジェノサイドに該当する。ジェノサイド国際法上時効適用されない、と主張している。

注:「カティンの森」事件

ソ連は1939年9月にポーランドをドイツと分割占領し、約3万人のポーランド人将校を連行・抑留した。この内ソ連軍の従軍を望まなかった約2万名を、スターリン等の命令によりソ連内務人民委員部(NKWD)が、翌40年3月から数ヶ月間にわたりカティン、スモレンスク、カリーニン(現トヴェーリ)、ハリコフなどで組織的に殺害した事件を、「カティンの森」事件と総称している。 社会主義時代はドイツのしわざと宣伝され、ソ連が真相を認めたのは1990年であり、未だに事件の全容は明らかになっていない。

注:国民記録機関(IPN=Instytut Pamieci Narodowej, Institute of National Remembrance)

ナチズム及び共産当局による殺害事件等の捜査、調査、記録、教育活動を実施する国家機関。1998年設立。捜査部門は特別司法機関として、担当検事の指揮下、容疑者の逮捕、訴追も行う。

 

4.ポーランドはEU諸国中、失業率、就業年数、産業部門別人口などで最悪−UNDP報告

 12月3日、国連開発計画(UNDP)は、欧州地域の開発報告書を発表した。それによると、ポーランドは、

―失業率は18.7%でEU諸国中最悪(EU平均は9%)

―特に青年層の失業率は約40%で、EU平均(19%)の2倍以上

―法定年金受給年令(男性65才、女性60才)まで退職しない人々の率も最も低く、女性では全就業者のわずか13.5%、男性29%。

報告書では、ポーランドでは高い経済成長が雇用拡大に十分繋がっておらず、人口動態などから今後10年間は失業率などで大きな変化は無いとしている。過大な年金生活者の存在は、90年代の「労働市場緩和政策」の悪影響が指摘された。また、農業人口が18.5%とEU平均の4.5%を大きく上回っており、就労構造上の問題も指摘している。UNDPの指摘では、農業からは240万人が離脱する必要があるが、失業者の42%が農村居住者という現状ではそれも難しいとしている。更に、中小都市における小規模金融制度、特に小企業向けの整備が重要課題とされた。

一方、ポーランドで肯定的な点として、教育水準の向上が挙げられ、高等教育修了者は、93年には就業者の10%だったのが、01年には17%を越し、「非常に高い伸び率」と指摘された。

政府もこの報告書を重要視し、経済・労働省クルパ次官は、雇用振興法の改正を急ぐと述べた。

 

5.「左派同盟」(UL)発足

12月3日、労働同盟(UP)を中心とする左派の7政党は、「左派同盟」(UL)を設立した。UPの他、社会党(PPS)、民主左派党(PDL)などが参加したが、UP以外国会議員もちろん、地方議会にもほとんど足場のないミニ政党。各紙は、どれだけ政治力をつけられるかを疑問視している。代表者宣言では、「ポーランドは理念的に堅固な左派が必要。社会正義を欲する人々の期待に応える」、となっている。

 

6.ロシア、第二ヤマル・ガスパイプラインをバルト海海底とする意向か

 12月3日付の「ジェチポスポリタ」紙は、ロシア・ガスプロム社が、西欧向け天然ガス輸出用のパイプライン「第二ヤマル・ガスパイプライン」を、ポーランド経由でなくロシアからバルト海海底を通り、直接ドイツに通すルートにする意向を事実上決めた模様だと報道した。

 現在、ロシアの天然ガスはベラルーシ・ポーランドを通る「第一ヤマル」ガスパイプラインとウクライナ・スロヴァキア・チェコを通る二つのルートがあるが、西側での需要増加もあり、もう一本の「第二ヤマル」ガスパイプライン建設が決まっている。

天然ガスの採掘・販売では世界最大の「ガスプロム」社は、最初から海底パイプライン建設を希望していたが、問題は約50億ドルとされる費用の資金繰りだった。しかし、今回ガスプロムは石油会社「ロスニェフチ」とガス会社「ユガンスクニェフチガス」(ユーコス社の子会社)、を吸収合併したため、事業、収益共に拡大が見込まれ、資金調達の見通しが立った模様。

ポーランド側は、エネルギーの安定供給と、手数料収入への期待からポーランド経由を望んでいる。特に、今年2月、ベラルーシのガス未払いからガスプロム社が「第一ヤマル」経由のガス供給を大幅に減らした事件の経験から、「第二ヤマル」建設により、益々「第一ヤマル」の重要性がロシアに露にとって薄まる危機感がある。ポーランドは、ベラルーシの様なケースでも、ドイツへの供給路である限りロシアは「第一ヤマル」の供給を減少させないと予測していたが、2月にも実際にはスロヴァキア・チェコルートの供給が拡大された。

 

7.イェンジェイチャク選手のメダルは5万ドル

アテネ五輪の水泳で金1、銀2のメダルを獲得したオティリア・イェンジェイチャク女史の金メダル(200メートルバタフライ)が、12月7日のオークションで15万plnの値を付けた。