ポーランド政治・社会情勢(9月8日〜14日)
1.ポーランド下院、ドイツに戦時賠償請求を要求。政府は交渉拒否の意向
9月10日、下院はほぼ満場一致で、ポーランド政府がドイツ政府に戦時賠償請求交渉を行うことなどを要求する決議案を採択した。ドイツで「プロシア信託」などの引き揚げ者団体の構成員が、戦前のドイツ領で現ポーランド領の地域で接収された不動産などに対する補償請求運動を行い、今後訴訟を起こすとしていることに対抗するもの。「決議」は法律と異なり、法的拘束力は無い。
ポーランドの戦時賠償は、1945年8月のポツダム協定(日本の無条件降伏に関する「ポツダム宣言」とは別)により、所謂東プロイセンと、現西部領土とそこに所在する財産で手当てされることになった。またポーランド政府は、1953年に、東独のデモ等を警戒したソ連の圧力によって、他の一切の賠償請求を放棄する宣言を行い、1968年のポーランド・東独条約でこれを追認した。
下院の見解では、これらの賠償放棄は無効としている。これに対しポーランド政府は、同日声明を発表し、ポーランドの戦時賠償は解決済みであり、ドイツとの交渉開始の意図はなく、ただしドイツ人による請求訴訟が行われる場合は政府として被告のポーランド人等を全面的に支援する、また大戦中の被害を明らかにするため試算を作成する、としている。政府は13日の閣議でもこの方針を確認した。ドイツ側はシュレーダー首相やフィッシャー外相も、ポーランド政府の対応を歓迎する発言を行っている。
2.左派政党、上院補欠選挙で敗北
9月12日、欧州議員への転出で空席となっていた上院4議席の補欠選挙が実施された。転出した議員は全て与党民主左翼連合(SLD)所属だったが、SLD、社民党の左派候補は全て落選し、自由同盟、市民プラットフォーム、家族連盟他の中道・右派候補が当選した。選挙区の内、特にシロンスク県(交代3議席)は伝統的に「赤い地方」と呼ばれ、左派勢力が強いところであるだけに、改めて左派の退潮ぶりが明らかになった。ヤニクSLD党首は、「左派で選挙共闘が出来ていればもっと善戦できていた」と4議席喪失の落胆を隠さなかった。SLD内では、12月の党代議員大会に向けて、ヤニク党首の指導力不足を批判する声が強まっている。
3.「市民プラットフォーム」、憲法改正案の国民投票の署名運動へ
野党第一党の「市民プラットフォーム」は、議会改革のための憲法改正を提案、国民投票のための署名運動「4つのtak」を開始した。内容は、(a)(1989年の)円卓会議の妥協の産物である上院の廃止、(b)比例代表制で「偶然議員になる連中」を排除するための小選挙区制導入、(c)下院定数の半減(460→230議席)、(d)議員の取調べ免除、不逮捕特権の廃止。
4.下院特殊機関特別委、シマイジンスキ国防相とドゥカチェフスキ軍情報部長を検事局に告訴
9月9日、情報機関や治安機関の動向を担当する下院の特殊機関特別委員会(注)は、ドゥカチェフスキ軍情報部(WSI)長を職務怠慢と職権濫用、シマイジンスキ国防相を監督不十分で検事局に告訴した。検事局は取り調べを開始する方針。
ドゥカチェフスキ部長は、タルノフスキ保安庁副長官(当時)に、社会主義時代に軍情報部との協力の履歴があるにもかかわらず、関連資料を国民記録機関(IPN)に10年以上も送付していなかった。更に今年3月、タルノフスキ副長官の将軍職への昇任(ポーランドでは、公安庁や諜報庁などの内務・情報機関では軍の階級・称号が用いられる)の直前に、将軍職の任命権を持つ大統領府に関連資料を独自に通報した。
ポーランドでは、主に次官級以上の高位公職への就任には、社会主義時代の公安や軍情報部との関係の有無を宣言する義務がある。例え「有った」と宣言しても直接には就任を拒否されることはないが、もし「無かった」として虚偽が判明すれば、10年間の公職追放等の処分を受ける。これは人権上重大な問題であるため、宣誓の審議は専ら中立的な準裁判機関である国民記憶機関が行い、疑義がある場合は特設法廷での裁判で審査される。このため、内務・行政省や軍情報部は、社会主義時代に当局が収集した個人情報ファイルを国民記憶機関(IPN)に提出せねばならないが、ドゥカチェフスキ部長はこれを故意に怠っていた疑いが持たれている。更に、大統領府に直接個人の情報を送ったことは職権濫用だが、同部長は政治的な攻撃の手段に悪用したと言われている。
5.ポーランド・米、米国入国事前審査の導入に合意
9月8日、ポーランドと米国は、ワルシャワ空港における米国の事前入国審査導入に合意した。9月中旬より実施される予定。米国では、昨年518人のポーランド市民が査証を所持していながら入国を拒否、送還されており、首脳会談でも問題になっていた。主に不法就労の疑いからだが、米国での滞在資格に関する理解不足も指摘されいた。
今回の措置で、米国への渡航者で、希望する者は空港で事前に書類の審査を受けることが出来、入国拒否の可能性がある場合は勧告を受ける。同勧告に従うか否かは本人の自由となる。当面の対象はワルシャワ空港のみで、またシカゴ、NYの両米国直行便乗客のみに限定される。費用全般は米国側が負担する。